木漏れ日の影

院長コラム

Director's Insights

【第3回】新しいホームページに込めた当院の考え:リブランディング

前回は、不妊治療をWebサイトで正しく伝えることの難しさについてお話ししました。

今回は、不妊治療を取り巻く環境の変化と、今回のホームページリニューアル(リブランディング)にあたって、「当院が何を大切にし、これからどのような医療を目指していくのか」という決意についてお伝えしたいと思います。

保険適用と「不妊治療」を取り巻く環境の変化

日本で体外受精が保険診療となり、不妊治療を取り巻く環境は大きく変わりました。

経済的な負担が軽減されたことで、以前よりも体外受精を選択しやすくなり、若い患者さんにとっても治療へ踏み出すハードルは低くなったと感じます。

私が大阪New ARTクリニックを開院した約30年前、体外受精は一部の方が受ける特別な治療でした。治療を受けることには現在以上の覚悟が必要で、周囲には伏せて通院される患者さんも少なくありませんでした。

現在では不妊治療について公に話す方も増え、企業の休暇制度や社会的な支援も広がっています。患者さんの意識だけでなく、社会全体の受け止め方も大きく進歩しました。

開院時から変わらない「患者さんの尊厳と心への配慮」

医療を提供する側の意識や環境も大きく変化しました。
私が大阪大学で生殖医療に携わっていた頃、人工授精や体外受精のための精子採取は、男性用トイレで行われることもありました。

しかし、私は「このような環境のままで良いはずがない」と考えました。

そこで大阪New ARTクリニックの開院時、海外の生殖医療施設を参考に、精子を採取するための専用個室を設け「メンズルーム」と名付けました。現在では珍しくない設備ですが、当時はまだ導入しているクリニックはほとんどありませんでした。

不妊治療には、高度で優れた技術や設備が必要です。しかしそれと同時に、「患者さんの尊厳や心理的な負担にどこまで配慮できるか」が欠かせません。この考え方は、開院当初から現在まで一貫して変わりません。

同じ体外受精でも、診療の組み立て方はクリニックで異なる

保険診療になったことで、体外受精は多くの医療機関で受けられるようになりました。しかし、同じ「体外受精」という治療名・同じ保険診療であっても、診療の組み立て方や判断の深さまで、すべてが同じになるわけではありません。

生殖医療は、年齢や検査データだけで機械的に決まるものではないからです。

  • これまでの治療経過
  • 卵巣刺激への反応
  • 採卵できた卵子の数や成熟度
  • 受精後の胚発育の様子
  • 子宮内膜の状態
  • 患者さんご自身の思いや希望

排卵誘発、採卵、胚培養、胚移植……これらを個別の作業として見るのではなく、すべてのプロセスを「一つの物語」としてつなげて総合的に判断する必要があります。一つひとつの反応や結果を緻密につなぎ合わせ、次の治療に生かすことこそが、生殖医療の本質です。

標準化(マニュアル)とテーラーメイドのバランス

医療の安全性と質を保つために、マニュアルや標準治療は不可欠です。しかし、すべての患者さんがマニュアル通りに反応するわけではありません。

標準的な治療をベースにしながら、必要な局面では患者さん一人ひとりの状態を見極めてフレキシブルに判断する

そのためには、高度な知識だけでなく、長年の臨床経験と深い洞察力が求められます。

時代の変化に応える「7つの新方針」

今回のホームページ刷新にあたり、当院の根底にある想いをどのような言葉で伝えるべきか、何度も議論を重ねました。

開院以来掲げてきた5つの理念(Safety / EBM / Humanity / Tailor-made / Challenge)を軸としながら、現在の大阪New ARTクリニックが目指す医療をより具体的に伝えるため、新たに「7つの方針」を策定いたしました。

【大阪New ARTクリニック 7つの方針】

  1. マニュアルだけに頼らない、一人ひとりに合わせた診療
  2. 一貫した質を大切にする、ぶれない治療方針
  3. 妊娠の可能性を支える、培養室の質へのこだわり
  4. 約30年の歩みから積み重ねた経験と実績
  5. 保険診療を基本とした治療方針
  6. 保険診療の対象外となる方への、より幅広い治療の選択肢
  7. 妊娠だけでなく、人生に深くかかわる医療

新しいものを取り入れること ── 変えてはいけないものを守ること
標準的な治療を大切にすること ── 一人ひとりの違いを見極めること
医学的な結果を追求すること ── 患者さんの人生そのものを考えること

そのどちらか一方ではなく、両方を愚直に追求し続けることこそが、私たちが提供したい生殖医療です。

今回のリニューアルは、単なるデザイン変更ではなく、大阪New ARTクリニックが歩んできた歴史と、未来へ守り抜く決意を再確認する貴重な機会となりました。

次回予告

次回からは、この「7つの方針」をひとつずつ詳しく取り上げ、当院の治療に対する考えや実際のこだわりについて、冨山自身の言葉でお伝えしてまいります。ぜひ引き続きお付き合いいただけますと幸いです。