現代のインターネット社会では、簡単に情報が得られる反面、その情報が必ずしも正しいとは限りません。どれが正しく、どれが誤りかは誰も教えてくれませんし、虚偽記載を規制する法的整備もなされていません。このように氾濫する情報の中から、如何に正しい情報のみを手に入れればよいのでしょうか。中立的な立場にある学会や第三者委員会の客観的なデータは、正しい判断をする上で役立つのではないかと考えます。
体外受精のデータ集計
国際ART監視委員会(ICMAT)は、53カ国から2002年60万件の体外受精のデータを集計し、採卵あたりの妊娠率は9.7~41.9%、流産率は6.2~48.6%であることを2009年に報告しました。最も高い妊娠率を報告した米国では、2~3個の胚を移植する頻度が高い国であること(欧州や日本は1個が原則)、40歳以上はドナー卵子を用いることから年齢層が若いこと、がその理由と考えられます。
米国生殖医学会(ASRM)は、2004~2006年の14万件の体外受精のデータを集計し、採卵あたりの妊娠率は38.5%(白人40.1%、アジア人30.9%、黒人32.0%、ヒスパニック37.3%)であることを2010年に報告しました。
一方、日本産科婦人科学会(JSOG)は、2007年の5万件の体外受精のデータを集計し、全国平均の妊娠率は胚移植あたり26.4%、流産率23.2%であることを2009年に報告しました。
現在の妊娠率は40%程度が限界
このように全ての患者さまを対象とした場合、どんなに多く見積もっても現在の妊娠率は40%程度が限界と考えられます。欧米の妊娠率が日本より若干高いのは、人種による違いであると考えられています。実施件数の少ない小規模な施設では、分母が小さいため、妊娠率が大きく変動することもあるでしょう(例:2/5なら40%、3/5なら60%)。
しかし、数多くの体外受精を行っている施設では、このような大きな誤差は生じにくくなります。各施設から日本産科婦人科学会に提出される書類には全症例を含みますが、これによると体外受精の実施件数が多い施設と少ない施設で妊娠率にはほとんど差がなかったと報告されています。つまりどの施設も妊娠率は26.4%前後ということになります。
したがって、非常に高い妊娠率をネットに掲げている施設では、数字を掲載する段階で何らかの操作の関与が示唆されます(全症例を対象とするのではなく、高齢者や難治症例を除外するなど)。